環境問題やエネルギー問題が深刻化する昨今では、日本の住宅やマンションにも配慮が必要とされています。近年ではロシアとウクライナの戦争により、欧州へのエネルギー供給の停止だけでなく、日本の電気料金の見直しも入るようになり、月々の光熱費が高くなりつつあります。そのためこれから住宅やマンションを購入する方は、より省エネを意識した建物を選ぶ必要があるでしょう。本記事ではZEHマンションの概要とメリット・デメリットを紹介します。またZEHマンションの光熱費と今後の将来性について解説します。マンションの購入を検討している方や、ZEH住宅と比較したい方はぜひ参考にしてください。
ZEHマンションとは?
ZEHマンションとはどのようなマンションのことなのでしょうか。ここではZEHマンションの概要について紹介します。
ZEHとは
そもそもZEHという言葉を初めて聞いた方に説明すると、ZEHとは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略称です。言葉の通り、エネルギー0を目標とした住宅のことを指します。日常生活を送るうえで、冷暖房や電気などを使用するため、エネルギーを消費します。しかしZEHの住宅は、建物の断熱性能の向上アップを行い、高いエネルギー効率の設備を導入することにより省エネ性能を高めています。また太陽光発電などを行い、エネルギーの創生により、消費エネルギーとの収支を0を目指した住宅になります。その結果、世界各国で問題視されているエネルギー問題の解決に務めるだけでなく、自宅の光熱費の削減などにもつながります。とはいえどの住宅でも良いわけではなく、大まかに以下の3つの性能を有している必要があります。
● 断熱性能
断熱性はUA値という数値で表記されます。UA値の値が低いほど、断熱性能が高いと判断できますが、ZEHでは0.4~0.6の間という基準が設定されています。
● 省エネ性能
ZEHの場合、一般的な住宅より一次エネルギー消費量を20%以上削減する省エネ性能がなければいけません。そのため空調や換気、給湯や照明の4つはZEHの基準をクリアした設備の導入が求められます。
● 創エネ
ZEHではエネルギーを作り出す設備を導入する必要があります。例えば、太陽光発電システムや蓄電池、家庭用燃料電池などがあげられます。「電気を発電することにより、自宅の消費エネルギーと相殺し、収支0にする」という目標に向けて必須な設備です。さらに災害時に電気が止まった際も、非常用電源として活用できるメリットがあります。
ZEHマンションとは
出典:経済産業省「EHの普及促進に向けた政策動向と令和4年度の関連予算案 」
ZEHマンションとは先ほど紹介した、エネルギーの収支0を目指したマンションとなります。通常のマンションより省エネ性能が高く、さらに創エネもされるマンションです。また省エネ率によって、「ZEH-M」「Nearly ZEH-M」「ZEH-M Ready」「ZEH-Oriented」の4つに区分されます。さらに専有部分と共有部分を合わせた住棟単位での評価基準に加えて、専有部分である居住空間の住戸単位での評価基準が決められています。ここでは4つのマンションの基準について紹介します。
● ZEH-M
ZEHの基準を満たしたマンション(M)のことです。基準は以下の通りですが、住棟の場合、地上1階から3階建てのマンションが該当します。なお住戸に関しては階層に基準はありません。
断熱基準 | UA値 1・2地域:0.4W/㎡K相当以下 3地域:0.5W/㎡K相当以下 4~7地域:0.6W/㎡K相当以下 |
一次エネルギー消費量(創エネを含まない場合) | 省エネ基準から20%以上削減 |
一次エネルギー消費量(創エネを含む場合) | 省エネ基準からおおむね100%以上削減 |
● Nearly ZEH-M
ZEH-M同様、住棟は地上1階から3階建てのマンションが該当します。ただし、敷地の形状や隣接する建物によっては十分な太陽光発電ができない都心部などのマンションが該当するケースが多いです。基準は以下の通りです。
断熱基準 | UA値 1・2地域:0.4W/㎡K相当以下 3地域:0.5W/㎡K相当以下 4~7地域:0.6W/㎡K相当以下 |
一次エネルギー消費量(創エネを含まない場合) | 省エネ基準から20%以上削減 |
一次エネルギー消費量(創エネを含む場合) | 省エネ基準から75%以上100%未満の削減 |
● ZEH-M Ready
ZEH-M Readyは地上4階から5階建てのマンションにおいて、一定基準を満たしたマンションです。Nearly ZEH-Mより一次エネルギー消費量基準が低くなっている特徴があります。
断熱基準 | UA値 1・2地域:0.4W/㎡K相当以下 3地域:0.5W/㎡K相当以下 4~7地域:0.6W/㎡K相当以下 |
一次エネルギー消費量(創エネを含まない場合) | 省エネ基準から20%以上削減 |
一次エネルギー消費量(創エネを含む場合) | 省エネ基準から50%以上75%未満の削減 |
● ZEH-M Oriented
ZEH-M Orientedは立地の兼ね合い上太陽光発電などができないZEHのマンションです。東京都内の住宅は隣地との境界も近いうえ、高層ビルなどが多いことで十分な発電が期待できない場合もあります。とはいえ、ZEHの認定を受けるためには太陽光発電が必須であるため、ZEH-MOrientedとして認定を受けることが可能です。
断熱基準 | UA値 1・2地域:0.4W/㎡K相当以下 3地域:0.5W/㎡K相当以下 4~7地域:0.6W/㎡K相当以下 |
一次エネルギー消費量(創エネを含まない場合) | 省エネ基準から20%以上削減 |
ZEHマンションのメリット
では、ZEHマンションは通常のマンションと比べてどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは3つのメリットを紹介します。
光熱費の削減
ZEHマンションは高い断熱性能と高いエネルギー効率の設備を導入しているため、毎月の光熱費を抑えることが可能となります。近年では電気料金の見直しが入る地域が多いですが、太陽光発電によって創生したエネルギーを利用することで、安定した光熱費にすることが可能です。また創生した電気を災害時に使用することも可能なメリットがあります。
住宅ローン控除で優遇が受けられる
ZEHの認定を受けたマンション(住宅も含む)は住宅ローン控除の対象となり、借入残高が3,000万円から4,500万円まで受けることが可能となるメリットがあります。住宅ローン控除とは借入残高に対し、0.7%の金額を13年間所得税から控除できる仕組みです。つまり、住宅ローンを借入した初年度であれば、一般的なマンションと比較して、以下の表のとおり控除額が大きくなります。
一般的なマンション (3,000万円まで可) |
ZEHの認定を受けたマンション(4,500万円まで可) | |
住宅ローン控除額(初年度想定) | 21万円 | 31.5万円 |
つまり、ZEHの認定を受けたマンションを住宅ローンを利用して購入した場合、10.5万円の所得税の節税につながることになります。なお、令和6年・7年の控除額は3,500万円になる想定であるため注意してください。
マンションの資産価値を高める
ZEHのマンションは一般的なマンションより資産価値が高いと判断されます。そのため将来的に売却する際も、高く売れる可能性が高いメリットがあげられます。ZEHは国が定めた基準を満たした建物です。そのため一般的なマンションより付加価値が高いとアピールすることも可能となります。
ZEHマンションのデメリット
ZEHのマンションは一般的なマンションと比べて断熱材の補強や太陽光パネル、省エネにするための設備が導入されるため、価格が高くなるデメリットがあります。また、ZEHには最大112万円の補助金を受けられるネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)支援事業がありますが、マンションにおいては施工会社が補助をもらうことになります。その分建築費に還元している会社もありますが、それでも一般的なマンションより1割から2割前後価格が高くなる傾向にあります。
さらにZEHは建築主に対して補助金が交付されます。そのためZEHの住宅を建築した場合、施主に交付されますが、マンションの場合、施工会社に給付されるデメリットがあります。
ZEHマンションと光熱について
ZEHマンションは消費するエネルギーと創生するエネルギーの収支を0を目標とした住宅です。そのため多くの方が、「光熱費が0円になるのでは?」と疑問に思うのではないでしょうか。結論としては0円になることはありません。理由は
● エネルギーの収支を0にすることを目標としたものであり、0になることはほとんどない
● 電気料金には基本料金が発生するため
ZEHはエネルギー収支を0の目標を掲げておりますが、実際、各家庭のエネルギー消費量が異なれば、地域や建物によって創エネルギーも異なります。そもそも目標であるため、必ず0になるとの確証もありません。またすべての電力会社は基本料金を設定しています。そのため事実上0円になることはありません。ただし、太陽光発電によって貯めた電力を売却し、売電収入を得ることも可能です。うまく利用できれば光熱費と相殺できるかもしれませんが、マンションの売電収入は管理組合で運用していることが多いため確認しておきましょう。とはいえ、先ほどのメリットでもお伝えした通り、毎月の光熱費は一般的なマンションより安くなります。具体的な金額は各地域やZEHマンション、入居者の消費エネルギーによって異なるため、詳しくは電力会社に問い合わせしてみても良いでしょう。
ZEHマンションの未来
2014年4月、エネルギー基本計画の政府閣議決定により、「住宅については、2020 年までに標準的な新築住宅で、2030 年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」という政策目標が発表されました。また2050年のカーボンニュートラルを目指すことが宣言され、2030年以降のZEHを取り巻く環境がより大きく変化しています。ZEHロードマップフォローアップ委員会が発表した「更なるZEHの普及促進に向けたZEH委員会の今後について 」を確認すると、近年のZEH住宅は2020年では約6.6万戸の供給となっており、2012年の443戸と比べて約150倍となっています。しかしZEHマンションにおいては2020年度の着工面積のうち、ZEH-Mの着工面積はわずか1.2%にとどまっています。棟数に関しては以下の表のとおりです。
ZEH-M | 88棟(全体の36%) |
Nearly ZEH-M | 122棟(49%) |
ZEH-M Ready | 10棟(4%) |
ZEH-M Oriented | 27棟(11%) |
戸建て住宅と比べると、ZEHマンションの普及はまだまだ少ないといえるでしょう。しかしながら快適な生活をするためには必要な空間です。冬場は外気の空気を遮断することができるうえ、一年中過ごしやすいマンションは、今後ますます需要が高まることでしょう。またエネルギー問題や環境保全、カーボンニュートラルの実現を踏まえると、政府は今後、ZEHの住宅を増やしたいと考えています。そのため、補助金なども変わってくる可能性が高いです。マンション購入者への補助金もあるかもしれませんので、都度政策などには注視していたほうが良いでしょう。
ZEHマンションのまとめ
今回は、ZEHマンションの概要とメリット・デメリットと、光熱費や今後の将来性について解説してきました。ZEHは政策に合った住宅であるため、今後ますます需要が高まると予想されます。実際にメリットも数多くあることから、ZEHの住宅着工棟数は右肩上がりです。マンションに関しては、今は供給が多いとは言い切れませんが、今後多く普及されることが見込まれます。これからマイホームの購入を検討している人は、ぜひZEH住宅やZEHマンションを検討してみてはいかがでしょうか。
サティスホーム本社営業部長:小林大将
2級建築士と宅地建物取引士の資格を取得後、サティスホームで現場監督を10年経験。携わらせて頂いたお客様は200棟以上。その後、本社営業部長としてお客様の家づくりをお手伝いさせて頂いてます。