注文住宅を建築する際の土地選びにおいて、もっとも気になるのは価格ではないでしょうか。もちろん場所や大きさも大切ですが、高い土地はなるべく控えたいと思うでしょう。しかし相場価格より安い土地は建築するうえでさまざまな難点をクリアしなければいけない場合もあります。その中に擁壁工事があります。擁壁工事は費用が高額であるため、売主は売却できるように相場より価格を下げていることが多いです。しかし実際どれくらい擁壁工事の費用がかかるのでしょうか。本記事では擁壁工事の費用相場を紹介します。
これから注文住宅の土地選びをする方はぜひ参考にしてください。
注文住宅の擁壁工事の費用と相場
注文住宅の擁壁工事費用は、工法や高さ、施工場所によって価格が大きく異なりますが、おおよそ「1,000,000円~5,000,000円」前後となります。もちろん土地によって異なり1,000万円を超えるケースもあります。
擁壁工事は各施工会社おおよその単価が定められているため、下記の計算式で算出出来ます。
擁壁工事費用=1㎡あたりの施工単価×施工面積 |
例えば1㎡あたりの施工単価が50,000円で施工面積が40㎡の場合、費用は2,000,000円になるということです。もちろん施工単価は擁壁工事の工法や施工会社によって異なります。詳しく聞きたい方は施工会社へ確認してみましょう。
擁壁工事の助成金について
自治体によっては擁壁工事に関する助成金を設けている場合もあります。とはいえ一般の方が該当するかわかりにくいと思うので建築会社へ確認してもらいましょう。
三重県の場合、「がけ地近接等危険住宅移転事業」として以下の補助金を設けています。
● 除却等費
危険住宅の除却等に要する費用 一戸あたり補助限度額97万5,000円 ● 建物助成費 危険住宅に代わる住宅の建設、購入(これに必要な土地の取得を含む。)及び改修のため、金融機関等から融資を受けた場合、借入金の利子相当額(利率は8.5%を限度とします) とし、一戸あたり補助限度額421万円(建物325万円、土地96万円)を限度とする。ただし、特殊土壌地帯、地震防災対策強化地域、保全人家10戸未満の急傾斜地崩壊危険区域及び出水による災害危険区域については、1戸あたり731万8,000円(建物465万円、土地206万円、敷地造成60万8,000円)を限度とする。 |
引用:三重県|住まい:がけ地近接等危険住宅移転事業 (mie.lg.jp)
上記の助成費を見てわかる通り、非常に大きな金額です。もちろん満額助成される可能性は低いですが、ぜひ利用するようにしましょう。
そもそも擁壁工事とは?
そもそも擁壁工事とはどのような工事内容なのでしょうか。ここでは擁壁工事の役割と目的、工事が必要なケースを紹介します。
役割・目的
擁壁工事は建物の安定化を図るために用いられています。道路と敷地に高低差がある土地に建物を建築しても、建物の荷重に耐えられず倒壊する可能性もあります。特に地震が発生した際は地盤が崩れる可能性も高まります。一方擁壁工事をしていれば地盤が崩れることもなければ建物の倒壊をする可能性が低くなります。
擁壁工事が必要なケース
擁壁工事が必要となるケースは以下の4つが挙げられます。
1. 道路や隣地と高低差がある時
2. 土砂災害警戒区域に該当している土地の場合
3. がけ条例に該当している時
4. 既存擁壁では建築確認申請が降りない場合
道路や隣地と高低差がある時
注文住宅を建築する土地が道路や隣地との高低差が大きい場合、擁壁工事が必要となるケースが多いです。高低差があるということは、土砂崩れによって自宅が倒壊する可能性も高いということです。コンクリートブロックでも良いと考える方もいらっしゃいますが、基本的には高さ2.2mまでであり、それ以上は控え壁が必要となるため活用できる敷地面積が狭くなってしまいます。さらに耐力性は低いため、建築申請の許可が下りない場合もあります。詳しくは設計士へ確認しましょう。
土砂災害警戒区域の該当している土地の場合
土砂災害警戒区域に該当している土地の場合、擁壁工事が必要となるケースがあります。土砂崩れする可能性のある場所から離したところに建築すれば、擁壁工事を逃れることも可能ですが、詳しくは設計士の判断となります。しかし土砂崩れは非常に危険であるため、一般的には擁壁・防護壁工事を行います。建築する土地が該当しているかは国交省の「ハザードマップポータルサイト」にて確認できます。
がけ条例に該当している時
がけ条例とは建築する予定の隣地ががけの場合、隣地境界から一定の距離を離して建築する必要がある条例です。がけ条例に該当していると思っていた住宅を建築することができない場合も多いです。そのがけ条例から免れるために擁壁工事が必要となる場合もあります。
既存擁壁では建築確認申請が降りない場合
住宅を建築するうえで建築確認申請は必須です。申請が降りなければ住宅を建築することはできません。擁壁工事は建築確認に申請する内容です。さらに玉石擁壁や既存擁壁が破損している場合、再度解体して擁壁工事を行わなければ認可が下りないケースもあります。
注文住宅の擁壁工事の種類
擁壁工事にはさまざまありますが、特に注文住宅の擁壁では以下の3つの種類が採用されています。
1. 鉄筋コンクリート造
2. 無筋コンクリート
3. 練積み造(間知)
鉄筋コンクリート造
擁壁工事の中で最も採用されています。コンクリートの中に鉄筋を入れ、耐久性と強度を高める擁壁です。擁壁だけでなくマンションなどにも採用されています。鉄筋コンクリート造の擁壁工事は特に法令や条例をクリアするうえで必要となることが多いです。しかし鉄筋コンクリート造の擁壁工事は非常に価格が高いデメリットがあります。
無筋コンクリート
無筋コンクリートは名前の通り、鉄筋が入っていないコンクリート擁壁です。現在の耐震基準では規定を満たしていないため、採用されることはありません。さらに無筋コンクリートは乾燥収縮によるひび割れが発生しやすい特徴があります。
練積み造(間知)
練積み造(間知)とは間知ブロックなどとも呼ばれ、高速道路の山岳部にある法面などに施工されている工事です。花崗岩などの石材を約30cmの大きさに加工して施工します。一般的には住宅で使用されるケースは少ないですが、山岳部に建築される場合は用いることもあります。
注文住宅の擁壁の工法と工期
ここでは擁壁の工法と工期について紹介します。工法は設計士が判断しますがどのような工法があるのでしょうか。ここでは3つの擁壁工法を紹介します。
L型
L型擁壁とはたて壁と底板によって作られ、「L」の形をした擁壁です。土圧に対し、躯体のたて壁で支える構造です。底板が敷地側に向けて施工されるため、最大限の敷地を利用することが可能です。
逆L型
名前の通り、L型と向きが逆になっている擁壁です。底板は隣地または道路に向かって施工するため、活用できる敷地が狭くなるデメリットがあります。しかしL型より土圧に対して強く、道路より敷地の方が高い場合に用いられます。
逆T型
逆T型とは、「T」の形を逆さにした擁壁であり、たて壁の左右に底板がある形です。よりわかりやすくいうと、L型と逆L型を繋ぎ合わせた擁壁です。住宅では使用されることは少ないですが、L型と逆L型同様耐力性が高い特徴があります。
工期について
擁壁工事の工期は規模にもよりますが、おおよそ1か月から2か月ほどの日数となります。初めに地盤調査を行い強度の確認をします。その後掘削工事を行い、型枠の作成、鉄筋組み、コンクリートの流し込み、打設という順番で行います。最後に乾燥させ、型枠を外して完了します。コンクリートは水に影響されやすく、雨の日や雪の日に施工する場合、さらに工事の手間がかかり、乾燥にも時間を費やします。そのため上記の日数はさらに目安としておきましょう。
注文住宅の擁壁のメンテナンス
擁壁工事は経年劣化によりクラック(ひび割れ)などが発生します。クラックを放置しておくとさらに大きなひび割れとなり、耐久性にも影響を及ぼします。そのため定期的なメンテナンスが必要です。ではメンテナンスはどのような方法があるのでしょうか。ここでは擁壁工事のメンテナンスについて紹介します。
メンテナンス方法
擁壁の汚れなどは自身で高圧洗浄を使用することで落とすことが可能ですが、クラックは専門業者へ依頼するようにしましょう。クラック補修はモルタルなどを使用したり樹脂を注入して補修します。専門的な知識が必要となるため必ず専門業者へ相談しましょう。
メンテナンス費用
専門業者へメンテナンスを依頼する場合、規模にもよりますが、「50,000円~200,000円」前後の費用が発生します。もちろん業者によって価格帯は異なります。しかしクラック補修は乾燥などもあるため1日で完了する作業ではありません。そのため想像以上に高かったと思う方も多いです。また1か所のクラックだけメンテナンスするのは費用対効果が合いません。複数個所のクラックが発生した時に専門業者へ相談しましょう。
注文住宅の擁壁工事の注意点
擁壁工事を行う際の注意点を2つ紹介します。
既存擁壁が申請済みであるか確認する
既存擁壁が利用できるかは過去に検査済みであるか確認する必要があります。擁壁は施工費用が高いため、できれば行いたくない工事です。既存擁壁がある土地の場合、行政へ擁壁工事の申請書または検査済証があるか確認し、現状のまま利用できるか確認しましょう。
隣地を越境しないように注意する
擁壁工事は地中であっても隣地へ越境してはいけません。越境は法律上禁止されているため、隣地所有者から損害賠償を請求される可能性もあります。敷地が狭いからと言って擁壁の底板を隣地へ越境してしまわないようにしましょう。
注文住宅の擁壁工事に関するQ&A
ここでは擁壁工事に関するQ&Aを紹介します。擁壁工事は費用が高いため、少しでも抑えたいと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは擁壁工事の費用を抑える方法を紹介します。
擁壁工事の費用を抑える方法はありますか?
擁壁工事は出来れば避けたい工事であるため、土地の選定が重要となります。しかしどうしても擁壁工事が必要となる場合は、各社相見積もりを取るようにしましょう。擁壁工事は外構工事業者が行いますが、業者によって価格は大きく異なります。もちろん施工技術も大切であるため、安ければ良いというわけではありません。しっかり業者を見極めて選択するようにしましょう。
サティスホーム本社営業部長:小林大将
2級建築士と宅地建物取引士の資格を取得後、サティスホームで現場監督を10年経験。携わらせて頂いたお客様は200棟以上。その後、本社営業部長としてお客様の家づくりをお手伝いさせて頂いてます。