近年の住宅では「長期優良住宅」「HEMS」などさまざまな種類が挙げられますが、どのような違いがあるのか分からない方も多いのではないでしょうか。今回は建築会社が多く採用している長期優良住宅にフォーカスをあて、仕組みや認定基準、申請方法について解説します。一般的な住宅と異なり、細かな認定基準が定められている一方で、大きなメリットも多く挙げられます。これからマイホームの購入・建築を検討している方はぜひ参考にしてください。
長期優良住宅の認定制度の仕組み
そもそも長期優良住宅とはどのような住宅を指すのか分からない方も多いのではないでしょうか。長期優良住宅とは、「耐震性」「劣化対策」「省エネルギー」などの措置が取られた建物のことを指し、国が定めた長期優良住宅認定制度の基準をクリアした住宅のことです。すなわち、地震に強く、劣化しにくい、なおかつ省エネである家であるため、安心安全に過ごすことができます。その他にさまざまなメリットがあるため、後ほど詳しく解説します。
長期優良住宅の認定基準
名前の通り、長期にわたって優良な住宅のことです。平成21年に施行された「長期優良住宅認定制度」の以下の9つの認定を受けた住宅のことを指します。ここでは9つの認定について解説します。
耐震性
極めて稀に発生する地震に対し、以下の3つのいずれかの措置を講じる必要があります。
1. 耐震等級3を取得する
2. 大規模地震時の地上部分の各階の安全限界変形の高さに対する割合をそれぞれ1/40以下とする(層間変形角を確認)
3. 免震建築物とする
省エネルギー性
省エネ法に基づき、次世代省エネ基準に適合する必要があります。具体的には以下の基準をクリアしなければいけません。
1. 断熱等性能等級5以上 (UA値、ηAc値、結露対策)
2. 一次エネルギー消費量等級6を取得できること
維持管理・更新の容易性
長期優良住宅は定期的な点検、補修等に関する計画が策定されている必要があります。以下の3つの等級を3以上取得しなければいけません。
1. 維持管理対策等級(専用配管)
2. 維持管理対策等級(共用配管)
3. 更新対策(共用排水管)
劣化対策
劣化対策等級3を取得したうえで、建物の構造によって以下の条件をクリアしている必要があります。
木造 | 床下空間の有効高さ確保及び床下・小屋裏の点検口設置など |
鉄骨造 | 柱、梁、筋かいに使用している鋼材の厚さ区分に応じた防錆措置または 上記木造の基準 |
鉄筋コンクリート造 | 水セメント比を減ずるか、かぶり厚さを増す |
住戸面積
床面面積が75㎠以上であり、1階の床面積が 40 ㎡以上であることが条件です。ただし地域の実情を勘案して所管行政庁が別に定める場合は、その面積要件を満たす必要があります。
居住環境
地区計画、景観計画、条例によるまちなみ等の計画、建築協定、景観協定等の区域内にある場合には、これらの内容と調和を図る必要があります。申請先の所管行政庁に確認しましょう。
維持保全管理
建築時から将来を見据えて、定期的な点検・補修等に関する計画が策定されている必要があります。以下の部分・設備について定期的な点検・補修等に関する計画を策定し、10年ごとに点検を実施しなければいけません。
1. 住宅の構造耐力上主要な部分
2. 住宅の雨水の浸入を防止する部分
3. 住宅に設ける給水又は排水のための設備
バリアフリー性
将来のバリアフリー改修に 対応できるよう共用廊下等に必要なスペースが確保されていること必要がありますが、戸建て住宅は該当しないため、特に注視する必要はありません。
可変性
居住者のライフスタイルの変化等に応じて間取りの変更が可能な措置が講じられている必要がありますが、戸建て住宅は該当しません。
住宅履歴情報の整備
長期優良住宅の認定を受けた住宅は、建築と維持管理、保全状況を記録として作成し、保存する必要があります、具体的には以下の書類が該当します。
1. 長期優良住宅認定申請書および添付図書
2. 意匠関係図書(平面図、立面図、矩形図 等)
3. 構造関係図書(各種伏図、壁量計算書、N値計算書、接合金物リスト 等)
4. 仕様関係図書・設備関係図書・設備機器関係図書 等
長期優良住宅認定の申請方法
長期優良住宅の申請は建築会社の方が行ってくれるため、建築主の方は特に手続きすることはありません。しかし建築会社の方がどのような手順と書類を準備しているか事前に理解しておきましょう。
● 住宅性能評価へ事前相談
長期優良住宅を建築する際は、登録住宅性能評価機関に事前相談をし、設計図書の作成を行います。
● 図面修正と審査
申請書を提出した後は審査を行ってもらい、「質疑表」が送られてきます。その内容通りに図面の修正を行います。修正が完了し審査がクリアした後は交付に移ります。
● 適合証の交付
図面の修正も完了したあと、問題なければ適合証が交付されます。名前の通り長期優良住宅の認定に適合した図面である証明になります。
● 所定行政庁へ認定申請
適合証が発行された後は、所定行政所へ以下の必要書類と一緒に申請書を提出します。
1. 長期使用構造等確認申請書2部
2. 長期使用構造等(変更確認)2部
3. 設計内容説明書(戸建住宅用)2部
4. 内容説明書添付資料(躯体高さ計算シート)2部
5. 委任状
6. 添付図書
認定が受理されれば長期優良住宅認定証が発行されます。
長期優良住宅認定のメリット・デメリット
ここでは長期優良住宅認定住宅のメリット・デメリットを紹介します。
長期優良住宅のメリット
長期優良住宅には以下の8つのメリットがあります。
1. 住宅ローン控除枠の増加
2. 住宅ローン金利が優遇される
3. 不動産取得税枠の増加
4. 登録免許税率の軽減
5. 固定資産税の減額期間が長くなる
6. 地震保険料が割引となる
7. 住宅取得等資金贈与の非課税限度額が大きくなる
8. 地域型住宅グリーン化事業(長寿命型)の補助金が得られる
それぞれ解説していきます。
メリット1:住宅ローン控除枠の増加
住宅ローン控除枠とは、住宅ローンの借入残高に0.7%を掛けた値を所得税から差し引くことができる制度です。例えば所得税が50万円で、住宅ローン残高が3,000万円の場合、21万を差し引くことができるため、所得税は29万円になります。住宅ローン控除枠は3,000万円までの借入残高と定められていますが、長期優良住宅に関しては5,000万円まで限度枠が増加します。そのため、より多くの所得税を圧縮できるメリットがあります。
メリット2:住宅ローン金利が優遇される
一般的に、長期優良住宅であれば、住宅ローンの金利を下げてくれる金融機関が多いです。例を挙げると、フラット35では最大10年間0.25%引き下げしてくれます。そのため月々の借入返済額を抑えることが可能です。昨今では金利の上昇が懸念されておりますので、少しでも返済額を圧縮できるメリットがあります。
メリット3:不動産取得税枠の増加
土地と建物を取得した際は、不動産取得税が課せられます。建物の不動産取得税は、建物の固定資産税評価額から1,200万円を控除した金額に3%を掛けた値となります。
不動産取得税=(不動産の固定資産税評価額-控除額1,200万円)×3% |
しかし長期優良住宅であれば控除額が1,300万円となるため、より納税額を抑えることが可能です。固定資産税評価額は固定資産税を算出するための指標となりますが、新築した翌年にわかります。一方不動産取得税は、建物を取得してから数か月後に納税通知が届くため、事前に固定資産税評価額を知ることはできません。とはいえ、一般的には本体価格の50%〜60%前後となるケースが多いため、2,000万円前後であれば課せられる可能性は低くなります。
長期優良住宅の建物を購入または建築した際の不動産取得税は、最大で1,200万円から1,300万円まで控除できるようになります。
不動産取得税とは、不動産を取得した人に対して課せられる税金です。注文住宅を建築した場合でも取得したとみなされます。税金の計算方法は以下の通りです。
不動産取得税=(不動産の固定資産税評価額-控除額)×3% |
固定資産税評価額とは、不動産の固定資産税や登録免許税など、税金を算出する際の指標となるものです。新築住宅の場合、固定資産税評価額が分かるのは翌年となるため、不動産取得税を計算する前に分からない方も多いです。とはいえ、本体価格のおおよそ50%〜60%前後になるケースが多いと認識しておきましょう。一方、土地を購入される方は別途土地の不動産取得税を納税しなければいけません。ただし、以下の要件に該当する場合、「4万5,000円」または、「1㎡あたりの土地の価格の1/2×住宅の床面積の2倍×3%」の多い方を控除できます。
● 土地を取得してから3年以内に住宅を建築すること
● 借地など他人の土地に住宅を建築する場合、建築してから1年以内に土地を購入すること
メリット4:登録免許税率の軽減
登録免許税とは、土地と建物を取得した際に納める税金です。固定資産税評価額に税率を掛けた値を納税します。長期優良住宅の場合、税率が以下のように低くなるメリットがあります。
一般住宅 | 長期優良住宅 | |
保存登記 | 0.15% | 0.1% |
移転登記 | 0.3% | 0.2% |
ただし、長期優良住宅の方が建築費が割高になる可能性が高く、固定資産税評価額も高くなることから、納税額が安くなるということではありません。あくまで税率が低くなると認識しておきましょう。
メリット5:固定資産税の減額期間が長くなる
新築住宅を取得した場合、固定資産税が3年間1/2の金額となります。例えば固定資産税が20万円の場合、3年間は10万円となるということです。一方長期優良住宅の場合、5年間となるため、減額期間が長くなるメリットがあります。
メリット6:地震保険料が割引となる
長期優良住宅の地震保険は安くなります。保険料が約30%割引できます。長期優良住宅は第三者機関耐震等級3を取得するため、地震に強い家であることを証明することが可能です。そのため保険会社によって異なりますが、地震保険料を安くすることができるメリットがあります。
メリット7:住宅取得等資金贈与の非課税限度額が大きくなる
住宅の建築費・購入する際、両親や祖父母から資金を贈与してもらう場合、贈与税が課せられます。ただし500万円までの非課税限度額が設けられていますが、長期優良住宅であれば1,000万円まで大きくなります。1,000万円以上の資金贈与に関しては贈与税の課税対象となる可能性も高いため注意してください。
メリット8:地域型住宅グリーン化事業(長寿命型)の補助金が得られる
長期優良住宅を特定の企業で建築することで、上限140万円の補助金を受けることが可能となります。地域型住宅グリーン化事業は中小企業の工務店が木造住宅の生産促進と環境負荷の提言を図るための事業です。該当するかは相談している企業に確認してみましょう。
長期優良住宅のデメリット
長期優良住宅にはデメリットも存在します。大きく分けると以下の5つが該当します。
デメリット1:建築費が割高になる
長期優良住宅は一般的な住宅より断熱性能や耐震性能をグレードアップする必要があるため、コストが割高になる傾向にあります。建築会社によって異なるものの、おおよそ1.5倍前後となります。そのため自身の予算を相談しながら取り入れるか決めていきましょう。目安費用としては以下の表を参考にしてください
30坪ほどの住宅 | 大手ハウスメーカー | 中堅メーカー | 工務店 |
一般的な住宅 | 2,400万円~3,000万円前後 | 2,000万円前後 | 1,500万円~1,800万円前後 |
長期優良住宅 | 3,600万円~4,500万円前後 | 3,000万円前後 | 2,300万円~2,700万円前後 |
デメリット2:各種申請費用も発生する
長期優良住宅は第三者機関からさまざまな認定を受ける必要があります。認定を受けるには申請と必要書類を作成しなければいけず、それぞれ費用が発生します。もちろん建築会社によっては本体工事に含んでいるケースもあるため、事前に確認しておきましょう。目安の費用としては30万円前後の追加費用が発生します。
デメリット3:申請が認可される時間がかかる
契約後はおおよそ2か月から3か月で着工しますが、長期優良住宅はさまざまな書類申請が追加でかかるため、着工がより遅くなる可能性があります。そのため住宅の完成が遅くなるデメリットがあります。とはいえ一般的な住宅と比較して1か月から2か月前後程度です。
デメリット4:定期点検が必須となる
長期優良住宅を建築した人は「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づき、建物の維持保全に関する記録を作成しなければいけません。しかし建物は築年数が経つことで劣化するため、長期優良住宅を維持するための定期点検が必要となります。メンテナンスは認定内容に基づいて行います。点検は5年または10年というサイクルで自治体から点検通知が届きます。基本的に提出することはありませんが、万が一怠った場合や虚偽の報告をした場合は、30万円以下の罰金が取られ、さらに長期優良住宅認定が取り消される場合もあるため注意が必要です。
デメリット5:そもそも建築できない会社もある
今となっては多くの建築会社で長期優良住宅を建築することが可能ですが、未だ一人大工や小さな工務店では対応していない会社も存在します。さらに施工実績が少ない会社も多く、申請に手こずる場合もあるため、実績ある会社に依頼するようにしましょう。
【長期優良住宅の認定】まとめ
今回は長期優良住宅の仕組みと認定基準、申請方法とメリット・デメリットを紹介してきました。長期優良住宅は名前の通り、国の基準をクリアして長期的に安心して過ごすことができる住宅です。もちろん申請や認定条件は複雑なため、建築会社の方がすべて対応してくれます。また、長期優良住宅にすることで税金面の優遇が多く挙げられます。とはいえ建築費はお客様負担となるため、慎重に判断しましょう。
サティスホーム本社営業部長:小林大将
2級建築士と宅地建物取引士の資格を取得後、サティスホームで現場監督を10年経験。携わらせて頂いたお客様は200棟以上。その後、本社営業部長としてお客様の家づくりをお手伝いさせて頂いてます。